2024.11.22
日本とは全く異なる環境での医療
活動地
カンボジア
活動期間
2023年9月~12月
2024年3月・8月~9月
※2025年も活動予定
カンボジアでの活動について教えてください
主にOPD(外来)業務、及び入院患者の主治医
海外特有の経験例
・幅広い疾患のカバー
日本ではあまりかかわらない他科の疾患・感染症(デング熱など)
日本ではあまり見ない疾患(巨大な痛風結節、進行した癌、巨大な膿瘍)や処置(膿瘍の切開排膿、外傷の縫合)
・通訳を介した外来診療
・第二言語としての英語でのコミュニケーション、ディスカッション
・他国の医療制度の仕組み、文化、慣習を理解する努力とそれを生かした活動
私の専門は呼吸器内科ですが、総合内科としてもそこそこ経験があったつもりでした。
しかし、現地で必要とされるのは、内科であればオペ以外はすべてカバーするジェネラリストです(それこそ日本ではあまり関わらない疾患が満載です)。
内科疾患だけでなく乳がんから整形外科的疾患から皮膚科疾患から耳鼻科疾患から何でも来ますし、初期対応、できれば診断、治療までの導入が必要です!
ジャパンハートに参加したきっかけを教えてください
もともと海外医療支援をしたくて医学部に入ったものの、いざ働き始めるとなかなか既定路線から外れることが難しく、結婚育児などのイベントもあって、専門医を取得後、臨床現場で働いていましたが、育児が一段落したのを機にチャレンジできる場所を探していました。
ジャパンハートはネット検索で見つけました(海外医療、ボランティア、で一番に出てきました)。
日本発症の医療支援NGOということで興味を持ちました。
ホームページには当初小児科、小児外科募集のみ掲載されていましたので、まず災害ボランティアに登録したのですが、そのときスタッフのみなさんからメディカルチームへの参加を勧められたのが今回のメディカルチームに応募したきっかけです。
ジャパンハートは日本人が始めたということもあり、参加のハードルが低いですし、現地は日本語、英語がメインですので、日本人にとっては働きやすいし、パフォーマンスを発揮しやすい利点があると思います。
現地医療の醍醐味を教えてください
日本と全然違う環境で医療するということは想像以上に新鮮です。
①検査、手技の学びなおし
CTや採血などの検査も簡単にはオーダーできず、的確な身体所見のとりかた、病歴聴取、エコー検査、レントゲン撮影が求められます。
採血も患者さんの金銭状態と相談しながら項目を設定しなければならないですし、日本では一般的な検査でも、当地では耳慣れない特殊な検査だったりします(呼吸器内科からみると、KL-6がない!とか)。
②知識の確認
現地のスタッフとディスカッションするときも、こちらの知識があやふやなところにいまさらながら気づいたりして、毎日、基礎知識の確認、知識のアップデート、不得意分野のスキルアップ(エコースキルなどは帰国のたびに実習セミナーに行きます)などなど、勉強は欠かせませんし、楽しいです。
逆に、専門外のところは教えられることも多いです。
③医療背景の違い
他国で活動するにあたっては、その国の状況をある程度理解し順応することも大切だと実感しました。
日本と同じやり方では通用しないこともありますし、日本が正しいというわけでもありません。
実際にそこで病気に悩む人に寄り添うためには、まずその背景を知るところから始めなくては。
④交流
これは医療ではありませんが、私にとってはとても大切なポイントです!
カンボジアの人たちはもともと気質が明るくて優しい人が多く(個人の勝手な感想ですが)、コミュニケーションをとってみんなで働くのがとても楽しいのです。
また、彼らの高いモチベーションも、とても刺激になります。
個人的にはみんなでビールを飲んで騒ぐのが大好きです。(これは書いていいのかわかりませんが)
活動地の忘れられないエピソードを教えてください
昨年、初めての長期ボランティアの時に診た咽頭腫瘍の40歳代の患者さんのことです。
痛みと呼吸困難のため初診で訪れたときには、腫瘍は気管を圧排しており、上部気道狭窄のため呼吸不全を起こしていました。
金銭的な理由で、腫瘍は何か月も前から大きくなっていたのに、病院に行くことができなかったのです。
ジャパンハートの話を聞いて、かなり遠方からこちらに来られた方でした。
まず命をつなぐために緊急で気管切開をせざるを得ませんでした。
しかし、そのあと判明したのは彼がまったく字が読めない、書けないということ。
声を失ったことで、彼は、意思表示の手段も同時に失ってしまった。
腫瘍の確定診断をすることも、積極的な化学療法や放射線療法をすることもできないその人(もし悪性リンパ腫であれば、化学療法は劇的に効くはず)に、苦痛をとるための十分な麻薬も往診手段も私たちにはありませんでした。
それでも一番彼と彼の家族のために何ができるのか、現地での情報収集、スタッフとの英語でのディスカッション(ちゃんと意見をぶつけあう)など、貴重な経験になりました。
あきらめるのではなく、できることを見つけるために、医療行為だけではなく、全人的に患者さんにチームで対応することの大切さを思い知りました(日本では当たり前にできることも、できないことが本当にたくさんあります)。
今後のキャリアについて教えてください
現在は、日本とカンボジアを数か月単位で行き来しています。
日本では短期間で以前働いていた病院の日当直業務のバイトをさせていただいて、活動費を稼いでいます。とてもありがたいことです。
海外医療支援活動を希望する医療者のために、提携できる日本の医療機関が増えればいいなと期待しております。
今後の参加者へのアドバイスと参加を迷われている方へ
私は内科医なので、内科医の視点からお話させていただきます。
①専門性
今のフェーズでは、カンボジアドクターにどんどんスキルを積んでもらう段階になっているようにお見受けします。
現地ドクターに何か提供できるような知識、スキルや専門性(分野は問わない)があったほうがよいかと思います。
現地では慣れない医療行為になります。現地のドクターのほうが慣れていますし、小外科的な処置など、最初は私は戸惑うばかりでした。
専門性があればそれが自分の支えになり、コミュニケーションが取りやすくなりますし、モチベーション維持に役立つかとも思います。
また、基本的なエコーのスキルは必要かと思います。
②長期活動
内科医の場合、どちらかというと外来診療の柱になることが多いように思います(基本的に入院は外科患者が多いので)。
外科とは違って、「経過観察」「薬物療法の効果のチェック」などが大きな役割を占めますので、できれば3か月以上は現地で活動することをお勧めします。
現地の公衆衛生、医療システムの把握などは、ある程度の期間滞在しないとなかなか飲み込めないので、これをうまく取り入れて活動していくためにも、長期滞在をお勧めします。
③とりあえず行ってみる
いろいろ書きましたが、何事もやってみないとわからないです。
迷われているのでしたら、まずは短期ボランティアに参加していただいて、経験してみることをぜひぜひおすすめいたします。
きっと、思わぬ発見もありますし、何より楽しいです。
メディカルチーム医師/内科
沖本 真史