VOICE

▼はじめに
「ジャパンハートこども医療センター」におけるICT(院内感染防止対策チーム)活動に昨年6月より参加し現在10ヶ月が過ぎました。これまでICTメンバーへの院内感染防止対策案の提示や啓発ステッカー貼付、針刺し防止グッズ及び簡易な採血管立て導入による血液媒介感染症防止対策等を実施してきました。

ただ啓発するだけでは院内感染防止対策は進まないことを日本でのICT活動で承知していたので、新たな取り組みとして視覚的に院内感染対策の必要性を訴える取組みを行ったので報告します。

▼新たな取組み
現病院は日常的手洗いの最後に手についた水分除去のため共有タオルを使用しています。日本の病院ではまずありえない共有タオルの使用です。これはカンボジアではペーパータオルの単価が高くて購入できないためですが、そもそもペーパータオル自体が市場にあまり出回っていないのです。そこで日常的手洗いで目に見える汚れを落としたあとの共有タオル使用は致し方ないとして、最後にアルコール手指消毒を取り入れ手についた細菌を減らすことで手からの接触感染を減そうという取組みを行いました。

目的は日常的手洗いとアルコール手指消毒との効果をスタンプ培地を用いて検証することであり、方法は日常的手洗い後に共有タオルを使用したあとの指先とそのあとアルコール手指消毒した指先をスタンプ培地に塗布し、アルコール手指消毒前後のスタンプ培地に発育した菌数の変化でアルコール手指消毒の効果を評価しました。

スタンプ培地に限りがあり成人病棟、小児病棟、外来、手術室、給食センターより2名ずつ計10名が被験者となりました。スタンプ培地の培養はふ卵器がないため東南アジア特有の高温を利用し25~30℃の室内で湿潤状態を保ち72時間培養後スタンプ培地に発育した菌数を数えました。(培養についてはまったく標準的な方法でなく結果は参考値として捉えています。)

結果はアルコール手指消毒後全く菌が生えず0となったケースが2件、アルコール手指消毒前に比べアルコール手指消毒後に菌量が0ではないが減ったケースが5件、逆にアルコール手指消毒後に菌数が等しいまたは増えたケースが3件ありました。

アルコール手指消毒後にまったく菌が生えず0となったケースは、ベテランナースが行なった手技でありアルコール手指消毒液の液量及び擦り込み時間が十分であったことを示しています。アルコール手指消毒前に比べアルコール手指消毒後に菌量が0ではないが減ったケースはアルコール手指消毒液の液量不足か擦り込み時間が不十分であった可能性が考えられました。最後のアルコール手指消毒後菌量が増えたケースはまったく消毒効果が得られないケースとして、アルコール手指消毒液の液量及び擦り込み時間の再確認が必要と思われました。

▼おわりに
今回の調査では統計解析においてもアルコール手指消毒効果がないと判定され、アルコール手指消毒の手技を見直すきっかけとなりました。ICTメンバーへの結果説明及びスタッフ全体へのアルコール手指消毒手技の周知徹底を行い病院全体への院内感染防止対策に対する意識の向上を図ることができればいいと思います。

院内感染防止対策のみならず医療安全、環境美化等いずれも文化であり定着するには関わる人の意識と時間を要します。開発途上国であるがゆえの資源不足等は否めませんが、ない環境でもよりよい方法を模索し取組むことが必要と思われました。

ジャパンハートこども医療センター 
臨床検査技師
森 三郎