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母子の安全を支えるために ―現地病院で見えた術後管理の課題
メディカルチーム助産師の近澤です。普段の活動地であるポンネルー病院を離れ、ひとりで他の病院(クロッチュマー病院)に2週間滞在して助産師活動を行い、術後管理と産後出血に関する介入を行ったことについてのレポートを書きたいと思います。

初めての滞在時、帝王切開後の術後ケア(特に極めて重要である出血の確認)が日常的にあまり機能していないという強い危機感を抱きました。
手術終了後、患者さんが部屋に戻ってきても血圧を測るだけで、出血量を見たり子宮の収縮具合を見たりすることをしていません。もちろん全スタッフがというわけではなく、一部のスタッフは知識もあり観察や説明ができるものの、必ずしも術後管理の担当に配置されているわけではなく、全体的に不十分だと感じました。
また、早期離床や深部静脈血栓症(DVT)の予防に関しても、患者が翌朝まで同じ姿勢のまま放置されていたり、離床開始が術後2日目以降になるなど、術後合併症が心配になる現状が浮き彫りになっていました。
そのため、2回目の訪問では術後ケアについての定着を目標に、レクチャー資料などを作成してモバイル活動に挑みました。
今回の滞在中にも決定的なきっかけがあり、術直後の適切な観察や説明が行われないままスタッフが休憩室に留まり、私が自らモニターでバイタル測定や出血確認を行わなければいけない場面がありました。その患者は後に重症の産後異常出血(PPH)を起こして他院へ緊急搬送される事態となりました。当日の担当医師と振り返りを試みたものの、「助産師が怠慢だからだ」という他責の言葉や、「子宮全摘に至らなかったから結果オーライだ」という認識の甘さに直面し、産後の異常の早期発見の仕組みが必要であると痛感しました。
この課題に対し、私は産科病棟リーダーである医師にアプローチを試みました。今回の出血事例をふまえ、経腟分娩後も含めた産褥管理の不十分さを伝えたところ、彼も深く同意してくれました。幸いにも、病棟では今後フォーメーションを変更し、経腟分娩後2時間の観察や、帝王切開後にオペ室の隣にあるリカバリールームで助産師と麻酔科医が常駐して2時間観察する計画を検討している段階だと教えてくれました。

現状の課題の認識が一致したところで、私は「観察をしていたとしても、それを他者や医師と共有するための客観的な記録用紙がないこと」をさらなる課題として提案しました。現在、使用されている記録用紙は1日2~4回の検温表で、それだけでは術直後の記録として不十分です。これに対し、私がポンネルー病院で使用しているクリニカルパスや記録用紙を一例として紹介したところ、彼は「素晴らしい、これをぜひ使いたい」と非常に前向きな反応を示してくれました。これにより、クロッチュマー病院に適した形のクリニカルパスを作成・導入し、それを機に全スタッフへの「術後観察の復習」と「産褥出血の対応について」のレクチャー計画が始動しました。スタッフ全員が参加できるよう2日間にわたって同じ内容で講義を行い、私が英語でプレゼンテーションした内容を産科のリーダー医師がクメール語に通訳するという強固な協力体制が整いました。
しかし、準備が順調に進んでいた数日後、最大のキーパーソンであった医師が急遽手術を受けることになり、長期休暇に入るという知らせが届きました。決定権を持つ彼の不在により、目玉であったクリニカルパスおよび記録用紙の正式導入が難しくなりました。他の産科医師や外科医師が通訳の立候補をしてくれたためレクチャー自体は実施できることになりましたが、これまでの現地スタッフの動向から、リーダー不在での新しい記録用紙の導入は極めて困難であることが予測されました。それでも「いま出来る限りのことはしよう」と、予定通りレクチャーを実施することにしました。
※『知っている』を『できる』へ ― カンボジア人助産師と取り組んだ術後管理の定着」へ続く
助産師
近澤
