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「母子の安全を支えるために ―現地病院で見えた術後管理の課題」のつづき

【1日目】
1日目のレクチャーはその日の出勤スタッフのみの参加となり、スタッフが連れてきた子どもたちが室内を走り回る環境でのスタートとなりました。前半の帝王切開の術後ケアに関する講義では、基礎的な内容に対して経験のあるスタッフから「そんなことは知っている、みんな出来るよ」と案の定の反応を受けました。「知っている」と「実際に臨床で実践できる」の間には大きな違いがあるのですが、その根拠やアセスメントの重要性を伝えることの難しさを痛感しました。
『知っている』を『できる』へ ― カンボジア人助産師と取り組んだ術後管理の定着
 また、術後1日目からの早期離床の提案に対しては、「自分たちが説明しても患者が動きたがらない」という意見が先行しました。これに対し、「患者が痛みを訴えるのは当然であり、だからこそ医療者が適切な疼痛コントロールを主体的に行い、サポートする必要がある」と粘り強く伝えたところ、トライしてくれることになりました。母乳育児や早期授乳についても同様に、痛みを理由に否定的な声が上がりましたが、家族の巻き込みやセルフケア(乳頭マッサージ等)の手法を具体的に提示することで、最終的には理解と納得を得ることができました。

一方で、危惧していた術後のクリニカルパスと記録用紙の導入については、スタッフから「すでに保健省規定の記録用紙(1日4回検温のみ)がある」「書くものが増えるのは公式記録ではないから無理だ」と否定的であり、実現には届かず終わりました。

しかし、出血時の対応のレクチャーでは流れが変わりました。ここで最も盛り上がったのは、「生体モニターの自動計測機能の設定方法」の説明でした。現場の全員が「そんな便利な機能は知らなかった!」と驚き、この日一番の盛り上がりでした。ショックインデックス(SI)の算出や双手圧迫の具体的な手法など、日本で実践されている知見に対しても、スタッフは非常に高い関心を持って真剣に耳を傾けてくれました。
『知っている』を『できる』へ ― カンボジア人助産師と取り組んだ術後管理の定着
【2日目】
 前日の反省を活かし、2日目は「すでに知っているかどうか」をまずスタッフに問いかけ、初歩的な部分を大幅に割愛する構成へと修正しました。この日の通訳は、1週間前に第一子が生まれたばかりの外科医師が快く引き受けてくれました。また、リーダー助産師も参加してくれたため、病棟全体が引き締まった雰囲気の中で進行しました。

 講義中、助産師側から「抗生剤投与中の授乳が大丈夫か」について医師へ質問が飛んだり、術後1日目の離床についてスタッフ間でクメール語での自発的なディスカッションが始まるなど、前日とは異なる主体的な姿勢が見られました。そしてこの日も、生体モニターの使い方やアラームの消し方といった実際に動かしてみたときに最も強い反応がありました。現地には寄付された優秀な医療機器が多くあるものの、埃をかぶっているケースが少なくありません。その原因は「使い方がわからない」「どのタイミングで使うべきかが結びついていない」という点にあります。実践を交えて伝えることで、彼らが前のめりになる瞬間を肌で感じました。
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また、急変時に全員がひとつの処置に集中してしまう現状に対し、リーダー役を立てたりそれぞれ役割を分散させる重要さについて説明を加えたり、救急搬送が必要だと思われるハイリスク症例では同時並行で搬送の準備に取り掛かるよう伝えました。人手が不足しているときに院内全体から人を招集できるエマージェンシーコールの作成や、産科以外のスタッフでも動けるアクションカードの提案などシステムについてのアイデアも参考程度に伝えると、「なるほど、そんなアイデアがあるのか」と深い関心を示していました。さらに、今回は産科外の外科医が通訳をしてくれたことで、産科の現状を他科の医師が深く知る機会となりました。

今回の活動は、当初予定していた「記録用紙(クリニカルパス)の導入による術後管理の仕組み化」という100%の形では達成できませんでした。レクチャー後の談笑のなかでスタッフから「ハイリスクの症例数が少ないため、学んでも忘れてしまう」「生活に余裕がなく、休みの日の勉強会には来られない」というリアルな本音を打ち明けられました。保健省からの試験や研修には忠実に従う彼らの姿を見て、根本的な医療の質の向上には、長期的かつさらに上層の行政機関へのアプローチが必要であるだろうという新たな視点も得られました。

しかし、現場の予期せぬアクシデントや言語の壁に直面しながらも、その場の状況を見極めてレクチャーを修正し、最終的に術後ケアの復習と出血時の対応について、全スタッフが同じ理解度になるよう底上げすることができたのは大きな一歩です。

目標としていた、病棟のレイアウト変更に合わせたクリニカルパスの導入や、クロッチュマー病院の医師たちと同じゴールを見据えて進む予定が一時的にストップしてしまったことは非常に悔やまれます。しかし、次回の訪問では、病棟のレイアウト変更が実行され、医師が定期観察を助産師に指示する具体的なタイミングに合わせるか、あるいは今回のレクチャーのフォローアップという形でアプローチを継続し、現地の母子の安全を形にしていけたら、と考えています。
『知っている』を『できる』へ ― カンボジア人助産師と取り組んだ術後管理の定着
助産師
近澤