VOICE

 メディカルチームの看護師として約4ヶ月間、小児がん病棟で活動した後、私は「子ども支援スタッフ」として役職を変え、医療を提供する側から治療を受ける子どもたちをサポートする側へ回る決断をしました。
「心を救う医療」を求めて ~ 看護師から子ども支援スタッフへの挑戦 ~ 
 しかし、この決断は決して容易なものではありませんでした。恐らく人生の中で最も悩んだ選択であったともいえます。なぜなら、「看護師として途上国の支援をする」それこそが、中学生の頃からの夢であり目標でもあったからです。
 子ども支援スタッフは、子どもたちに安心感を与え、不安や悩みを和らげながら治療に励むサポートをする立場です。その一方で、これまで直接携わってきた看護業務からは身を引く立場になることも意味します。
 そのため、「ここに来た意味を見失うのではないか」、「これまで積み上げてきた看護師としての経験やスキルが無になってしまうのではないか」という強い葛藤があり、苦渋の決断となりました。
 そんな選択に悩む中、決断の原点となったのは、病棟でみた懸命に「今日」を生きる子どもたちの姿です。採血や処置などを行う際、子どもたちは涙を流しながら必死に抵抗し、強い不安や恐怖からくる荒々しい怒号とともに聞こえるその悲痛な泣き声は病棟中に響き渡ります。中には、治療をがんばっても明日を迎えることのできない子どもたちも少なくありません。
「心を救う医療」を求めて ~ 看護師から子ども支援スタッフへの挑戦 ~ 
仲間の死から「いつか自分も…」と死への恐怖を覚える子どもたちもいます。その姿から、「また明日ね!」と言って次の日に笑い合えることがどんなに貴重で尊いことなのかを痛感しました。そんな子どもたちと関わる中で、私の心にはいつも「少しでも笑顔になれる時間を作ってあげたい」という想いがありました。
 前任のこども支援スタッフが任期を終え帰国されてからの数ヶ月間、同立場のスタッフが不在となり、病棟の雰囲気はどこか暗く、子どもたちだけでなくご家族やスタッフの心も沈んでいるように見えました。だからこそ、患者・ご家族・スタッフたちが抱える身体的精神的な苦痛に寄り添い少しでもその辛さを分かち合える存在が不可欠であると感じました。
 この決断に、日々ともに切磋琢磨する仲間たちは、「看護師は手段の一つでしかない」、「4ヶ月間病棟を経験して子どもたちのことも治療のことも理解しているから大きな強みになるね」と背中を押してくれました。この言葉は、「看護師」という肩書きや枠組みに固執していた私を「経験を活かしたうえで途上国の子どもたちにどのように貢献できるのか」という本来の目的に立ち返らせてくれました。こうして私は、子ども支援スタッフとしての覚悟を固めることができました。
 現在は子ども支援スタッフへ着任し、約3か月が経ちました。活動をする中でこれまでの看護師としてのスキルに加え、養護教諭やキャンプカウンセラーといった資格や知見、特技であるアートや音楽なども掛け合わせた、多角的な取り組みを行っています。
「心を救う医療」を求めて ~ 看護師から子ども支援スタッフへの挑戦 ~ 
 企業連携による病院づくりや院内学級の運営、得意分野を活かしたアートの授業や院内コンサートの企画・開催など活動の幅は多岐にわたります。また、このような体験設計だけでなく処置や採血を行う際や手術室へ向かう際には付き添い、子どもたちの不安が少しでも和らぐよう心掛けています。
 そして、何よりも大切にしているのは、子どもたちの「やってみたい」という自主性です。自己成長にも繋がるため、遊びも子ども自身に選んでもらうようにしています。
特に印象的だったのは、ある男の子の「ドリアンが食べたい」という願いです。香りの強いドリアンは院内への持ち込みが禁止されています。しかし、長期入院中の彼はずっとその想いを強く抱き続けていました。容態が芳しくない状況であったからこそ、すぐに医療スタッフに確認し、ドネーションで資金を募り彼にドリアンを届けました。香りを嗅ぎひとくち食べた時、彼が見せた心からの笑顔は今でも忘れることはありません。この1週間後、彼は息を引き取りました。これは医療として正解であったのかはわかりません。けれども、彼の最後の望みをひとつ叶えることができ、ご家族の方も涙を流し喜んでいました。
「心を救う医療」を求めて ~ 看護師から子ども支援スタッフへの挑戦 ~ 
 かつて、思い描いていた「看護師として直接医療を提供する」という形とは異なりますが、子ども支援スタッフだからこそ実現できた包括的なケアと空間づくりがあると感じています。
 今現在、「こども支援スタッフ」は院内に私ひとりしかいません。そのため、多職種との連携が必要不可欠であり、医療スタッフをはじめ、コメディカル、インターン生、通訳などたくさんの仲間のサポートのおかげで成り立っていることを実感しています。それは、院内だけに留まらず、教育関係の方やチャイルドライフスペシャリストの方とお話しする機会にも恵まれ、今までに経験のない多様な企業と関わりながらプロジェクトの遂行もしています。日々学びと成長を実感しているとともに、サポートしてくださっているすべての方に心から感謝しています。
「心を救う医療」を求めて ~ 看護師から子ども支援スタッフへの挑戦 ~ 
 看護師としての日本、そして、ここアジア小児医療センターでの経験はすべて患者さんとご家族により良い医療・生活・教育を繋ぐ大きな強みとなりました。
 今後も治療だけでは救うことのできない、その先にある子どもたちやご家族の “心を救う医療” を形にしていきたいと思います。子どもたちがワクワクすること・楽しいことを思いっきりできる時間を増やし、不安や悩みに寄り添いながら治療に励むサポートを続けていきます。
「すべての人が生まれてきてよかったと思える世界の実現」に向けて子ども支援スタッフとして今後も日々邁進してまいります。
「心を救う医療」を求めて ~ 看護師から子ども支援スタッフへの挑戦 ~ 
子ども支援スタッフ 杉山みな子