看護師
2024.04.01
カンボジア~クロッチュマー病院でのひとりっ子活動~
カンボジアに来て早くも7カ月。
先日クロッチュマー病院での1カ月間のひとりっ子活動(現地の病院に駐在し、患者ケアを行うこと)が終了しました。
クロッチュマー病院はジャパンハートこども医療センターから車で2時間半のところにあります。
病院の後ろには雄大なメコン川が流れており、メコン川周辺で暮らすイスラムやムスリムの患者さんも多く来院されています。
最初は農村地域の中にぽつんとある綺麗な病院、という印象を受け、ここで日本人ひとり残って患者さんのケアをすることに不安を感じていました。
しかし、ここで患者さんやスタッフと密に関わっていくうちに、気づいたらここを去るのが寂しいくらいクロッチュマー病院で過ごす日々が尊く大切な時間になっていました。
私にとって初めてのひとりっ子活動でしたが、1人で事前に現地入りして手術ミッションの準備を進め、3日間の手術ミッションを迎えるまでに、これもあれもやらなきゃと焦ってうまくいかないことが何度もありました。
そんなとき、後から到着したミッションメンバーやクロッチュマースタッフがサポートしてくれ、心強いメンバーに感謝しつつも足りないことだらけの自分にもどかしさも感じていました。
今回のミッションでは、甲状腺や陰嚢水腫など、もともとクロッチュマー病院では見ない疾患の手術を行うため、術後のケアを一緒にできるよう事前にスライドを作って勉強会をしたり、ジャパンハートスタッフとクロッチュマースタッフでチーム分けしてみんなで協働して患者さんをケアしたり。
どうしたら現地のスタッフを巻き込み一緒にミッションを完遂することができるか、どうしたら安全に患者さんのケアができるのか、何度かモバイルミッションの経験があるスタッフと夜遅くまで話し合いながら考えました。
「早く行きたければ一人で行け、遠くで行きたければみんなで行け」
これは後日ジャパンハートのスタッフが私に教えてくれた、アフリカのことわざです。
ミッションのときだけ、一時的に患者さんをケアするのであれば私たちだけでやったほうが早いかもしれませんが、長い目で見てここで今後も多くの患者さんをみるのであれば、現地のスタッフに教えつつ一緒に動いたほうが継続的な支援に繋がります。
モバイルミッションにおいて重要な視点であり、忘れてはならないことだと思います。
手術ミッションが終わると他のメンバーは帰り、術後の患者さんのケアが始まりました。
カンボジアに来てから、目の前の患者さんに向き合う場面が何度もありましたが、このひとりっ子活動ではさらに責任感というものを重く感じました。
術後高熱が出たけど熱源は何か、創部に感染兆候が見られるけど抗生剤はどうするか、この人は退院後家に帰って自分で創のケアができるのか、フォローアップに来ると言っていた患者さんが来ていないけど今頃どうしているのかな、電話をかけてみようか…
今までどれだけ医師や他のスタッフに頼っていたか、判断を委ねていたか痛感しました。
経験も知識も足りない、アセスメント力も低い、クメール語も少ししか喋れない、そんな私に何ができるのか。
それは「何があっても目の前の患者さんと真摯に向き合い、自分に何ができるか考え続けること」「言葉が通じなくても諦めずにどうやったら相手の意図を汲み取れるか、自分の意見を伝えられるか試行錯誤すること」でした。
今患者さんがどんな問題を抱えていてどんなケアが必要なのか、自分なりに考えて実践してみたり。
今までに覚えた少しのクメール語と身振り手振りで一生懸命伝えようとすると笑顔でうんうんと聞いてくれたり。
最初は「僕英語喋れないから…」と私が話しかけるとすぐ黙ってしまっていたスタッフにも、諦めずに日々挨拶や会話を投げかけていると、3週間後には笑顔で話しかけてくれるようになりちょっとした日本語まで話してくれるようになりました。
そうしていろんな人に関わり続けているうちに、今自分は1人でここへ来ているけど1人じゃない。たくさんの人に支えられていることを実感しました。それはこのクロッチュマー病院のスタッフや患者さんはもちろん、毎日「体調は大丈夫ですか?」と気にかけてくださるジャパンハートスタッフも同じです。
必死に考え自分の弱さと向き合い、辛くてしんどかった日々。それでも成長したいと思ったから。このひとりっ子活動を終えるまでに少しでも弱さを克服したかったから。心が折れそうなときに支えてくれたのは自分の中で決めた目標と、何より近くや遠くからサポートしてくれる周りの人たちの存在でした。
ミッションの患者さんのフォローアップが全て終了した後、私は外科病棟やオペ室、外来や救急病棟に足を運び、現地スタッフと一緒に処置やオペに入らせてもらっていました。
ジャパンハートや日本の病院とは全く違う方法に驚きつつも、ここで行われているやり方を知って一旦は受け止め、否定するのではなく「こういうやり方はどう?」と提案したり「どうしたらもっと患者さんのために改善できると思う?」と意見を引き出す形で介入していきました。
最初は危険だなと思った方法でも、農村部の病院で人手不足の中で生み出したやり方だと知ることで、どうしたらより安全かつ現地スタッフに受け入れてもらいやすいかという視点で考えることができます。
相手の困っていることやニーズを知ることで、今後どのようにサポートしていくべきか道筋が見えてきます。
私がどんなに違和感や改善点を見出したとしても、相手の課題感やニーズが無ければ納得されないし改善策も継続されない。
現地のニーズを汲み取り一緒に課題解決に取り組むことで、相手は課題をどう解決していくか知ることができ、それは私たちがいなくなった後も現地スタッフだけで継続していけるようになると考えています。
もちろんそこに至るまでに長い時間は必要となりますが、私がこの1カ月でクロッチュマー病院に関わる中で得た情報をミッションメンバーに共有したり、今後どういう支援をしていくか一緒に考えて地道に取り組むことで、少しでもクロッチュマー病院の医療がより良いものになるといいなと思っています。
自分と、患者さんと、スタッフと向き合い続けた1カ月。
うまくいかないことやつらいこともありましたが、それらをひとつひとつ乗り越えることで自分の成長を実感できたし1年後なりたい私に確実に近づけたと感じています。
このような貴重な機会を頂けたことに感謝しつつ、この経験を自分の中で終わらせず、他のメンバーにも共有していく予定です。
最後になりましたが、いつも支えてくださる方々、本当にありがとうございます。
カンボジアでの生活も残り5ヶ月弱となりましたが、1日1日を大切に、さらにいろんなことに挑戦していきたいと思います。
61期看護師 久島萌美