看護師
2025.02.14
いのちを繋ぐ第一歩
救急車の中には患者と家族と自分のみ。
モニターもAEDもなく、激しく揺れる車内で効果的なCPR(心肺蘇生法)もできない。
何もできないまま、患者さんが目の前で亡くなっていく。
そんな現状が当たり前にある状況で、自分に何ができるのだろうと自問自答し続けました。
・・・
今回は、当院で行われているモバイル活動の1つであるBLSレクチャー活動について紹介します。
「モバイル活動」は、地方の病院に出向いての診察および手術活動から始まりましたが、現在は手術という枠を超えて、現地の病院での医療知識や技術の向上を目的にBLSレクチャーを実施しています。
BLSとは心肺停止または呼吸停止に対する一次救命処置のことで、日本の医療者は誰もが院内研修などで実施する機会があります。
また、医療者でなくても、AEDや心臓マッサージの必要性を知る機会や体験する機会は学生行事やイベントなどでもよく見かけます。
しかし、カンボジアでは医療者であってもBLSの技術や知識を得る機会が少ないのが現状です。
私は、チャムカルー病院でひとりっ子活動中(ジャパンハートと連携している現地の病院に日本人1人で滞在し、モバイル手術の術後管理やフォロー、医療活動を現地のスタッフと一緒に行う活動)に、1人の患者さんの経験を通し、BLSの知識・技術の普及の必要性を強く感じました。
地方の病院では精密な検査や高度な医療をできる環境はないため、プノンペンや大きな都市に救急搬送します。
都心から離れた病院でできることは、環境面でも、人員面でも限られていますが、自分がこの病院のスタッフの一人として考えた時に、できることは“命を助かる場所へ繋ぐこと”だと感じました。
ジャパンハートの病院へ戻り、その情報をシェアすると、すぐにクマエスタッフの1人が、チャムカルー病院でBLSレクチャーをしようと提案してくれました。
ジャパンハートのBLSチームとともに実際にチャムカルー病院を訪れ、実際にレクチャーを実施してみると、たくさんのスタッフが参加し、興味を持って聞いてくれていました。
しかし1回のレクチャーを受けても、すぐに知識や技術は定着しません。
「BLS知識・技術の定着」を目標と考えた際に、現地のスタッフが、独自にBLSレクチャーを実施できる環境を整えることが理想的の形だと考えました。
ーどうしたら、現地のスタッフに必要性を感じてもらえるか
ーどうやってチャムカルー病院のBLSチームを作成するか
ーBLSの練習人形はどうするのか
次から次へと出てくるさまざまな問題を、チームで話し合い、このプロジェクトを進めていきました。
なかなか思いが上手く伝わらず、主体的に取り組んでもらうことができない。でも押し付けになっては意味がない。
諦めたくなるような時もありましたが、一緒に同じ方向を向き、同じ目標を持って取り組んでいけるようトライアンドエラーを起こしながらも真剣に向き合いました。
そして、先日第1歩となるチャムカルー病院のBLSチームとジャパンハートのBLSチームでのミーティングを行いました。
どのくらいの頻度でレクチャーを実施するか、またBLSチームのメンバーが正しい知識をスタッフに教えることができるようどうサポートしていくか、具体的に話し合うことができました。
また、BLSの大切なポイントについてのレクチャーや実践での練習も行い、アウトプットをすぐにできる場を設けることで、できている点、改善点のフィードバックを直接行うこともできました。
質問をするスタッフも多く、意欲的に取り組んでいる様子でした。
また、BLSの人形もカンボジアでは手に入れることが難しいため、今回ジャパンハートからBLS人形をドネーションしました。
まだまだこの活動は始まったばかりで、道のりは長いですが、 “命を繋ぎたい”という思いはみんな同じです。
今後、このチャムカルー病院のBLSチームの活動により、チャムカルー地域の患者さんが1人でも多く助かることを願っています。
看護師
中村 砂織