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「本当の幸せ」「心が満たされる」とはどういうことか(後編)
※前編はこちら
カンボジアのジャパンハート病院では患者1名につき、付き添い家族は1名としていますが、ラオスのウドムサイ病院では人数制限がないため、一家全員で病院へ来て寝泊まりしている家族も多い印象でした。バントンさんにも息子、娘、赤ちゃんの孫など、多くの家族が付き添っていました。
術後1日目、汚れた手術着を交換しましょうと提案したところ、家族が総動員となって動き始めました。大きいタオルをパーテション代わりにして覆う人、水を汲んでくる人、濡れたタオルで体を拭う人、着替えを手伝う人など。家族全員がバントンさんになにかしてあげたいという気持ちを強く感じました。
また、日本の病院とは違って食事も家族が準備をします。外の炊事場で家族が食べやすいお粥などを作り、患者さんたちは食事をとります。さらに、患者さんはベッド上で、家族はその下にゴザをひいて同じ空間で食卓を囲んでいます。状態も落ち着いてくれば、次第に一緒にゴザに座って食事を囲む、炊事場や外で食事をするなど、病院にいながら、家のような空間がそこには広がっていて、とても新鮮に感じました。
▶赤ちゃんを囲む家族
10人全ての手術が終わったミッション3日目の夜、一段落してふと病棟を見渡した時に眠っている患者さんたちのそばで家族が一緒に過ごす姿を見て、本当の幸せってなんだろうと考える時間がありました。
大変な入院生活であっても家族とともに過ごすことで笑顔が多かったり、中には小さい赤ちゃんがいて病棟のみんなで様子を見たりかわいがったり。患者同士も交流し助け合ったり、一緒にリハビリをしたりしている。
とても温かい雰囲気で、私自身も働いていて心地よく、心が満たされることが多かったです。
日本のように高度な医療はなく、お金やものも恵まれていない、けれども皆心は満たされている。
なにに幸せを感じるかは人それぞれあると思いますが、私にとって本当の幸せというのはお金やものではなく、家族や自分を大切に想ってくれる人たちのそばで生きることだ、その光景を見ながら改めて感じました。
日本で働いている時、面会制限や感染管理の都合などで患者さんが家族と会えずに悲しい思いをしている方をたくさん見てきました。孤独な病院生活がかえって病状を悪くさせるのではないか、とさえ思うこともありました。しかしラオスでは家族が常にそばにいることで、患者さんがどんどん元気になっていく姿を間近で見ることができました。
一方、患者さんが家族で過ごすことができる反面、家族は仕事を辞めたり、一時中断して付き添いに来ているケースもあり、経済的な負担が大きかったり、そもそもラオスという国自体の貧困や立地・医療アクセスの悪さなど問題は様々あります。そしてその状況はカンボジアでも同様にあります。
できる限り患者さんが家族とともにその人らしく、小さなことでも幸せを感じながら入院生活を送ることができるにはどうしたらよいか、カンボジアでのこれからの活動を通して考え、少しでも力になれるよう行動していきたいと思います。
▶全員集合で記念撮影
今回、患者さんを術前から、術直後の痛みで硬い表情の姿、そして日を追うごとに笑顔が増えていく姿を毎日見ていたからこそ、無事に患者さん10人全員が笑顔で退院していく姿を見た時は、本当に嬉しかったです。そして、間近で患者さんを支えることができる看護師という仕事を改めて好きだと思うことができました。そしてラオスという国も、人も、いつの間にか大好きになってしまったので、またいつかラオスで活動ができたら嬉しいです。
看護師
蛭川陽香