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新病院 放射線科の立ち上げー診療放射線技師活動レポート③
10月31日、ジャパンハートアジア小児医療センターが開院しました。ここは首都プノンペンからほど近く、新しく完成したテチョ国際空港にも隣接する立地です。開院に合わせ、私も約2か月を過ごしたウドンから移動し、新病院の立ち上げに参加することになりました。

しかし、タイとの紛争の影響でX線装置が開院に間に合わず、工期の遅れによりX線撮影室にはまだ鉛ガラスすら設置されていない状況でした。 当初は病院敷地内にある国立病院で撮影を行う予定でしたが、元々所有していた災害用モバイルX線装置を使用してはどうかという案が出されました。テスト撮影を経て、まずはそれを使って診療を開始することになりました。 ただし撮影が難しい部位は、国立病院へ依頼するという運用でスタートしました。 X線装置そのものは未設置でしたが、ワークステーションとフラットパネルはすでに準備されており、それらは使用可能でした。
診療開始日には防護プロテクターが届かないかもしれないというハプニングもありましたが、何とか間に合い胸をなで下ろしました。
胸部撮影は立位が難しいため、座位で対応しました。 モバイル装置は出力が弱く、撮影時間が長くなるため高画質とは言えませんが、被写体が小児だったことで何とか診断に耐えうる画像を得ることができました。

小児医療の要である超音波診断装置は日本製が導入され、私が長年使用してきたメーカーだったため大きな安心感がありました。 また、新病院では電子カルテも導入され、画像はカルテに転送する運用になりました。 ただし日本のようにワンクリックで転送できる仕組みではなく、一旦パソコンへ送ったのち、再度カルテへアップロードする必要があるなど手順が多いのが現状です。 多職種が利用するため、誰でも迷わず操作できるようマニュアルを作成しました。

診療開始から約1か月が経った頃、ようやくX線撮影装置と病棟用のポータブル撮影装置が届きました。 私自身、日本で病院開設に携わった経験はあるものの、今回役立った部分は多くありませんでした。ただ、どちらにも共通していたのは、「予想外の出来事が同時に起こる!」ということでした。
さまざまな困難はありましたが、病院に来る子どもたちやご家族が笑顔で「オークン(カンボジア語でありがとう)」と言ってくださると、それだけで心が温まり、これまでの苦労も報われたように感じます。
カンボジアの人々の優しくおおらかな笑顔には本当に癒されます。
新病院には X線撮影室のほか、X線TV室、CT室も備わっています。今後さらに新しい装置が導入されれば、診療の質向上につながるはずです。私もこの病院の歩みとともに、できることを模索しながら成長していきたいと思います。
診療放射線技師
辻野 幸代
