VOICE

私は現在、ラオスで小児がんプロジェクトを担当しています。

もともとはジャパンハートのメディカルチームとしてカンボジアで活動していましたが、その後ラオスに異動し、現在はラオスの子どもたちが適切な小児がん治療を受けられるよう、現地の医療スタッフとともに活動しています。

今回は、ラオスでの小児がん治療の現状や、日々の活動を通して感じた文化や価値観の違いについてお伝えしたいと思います。
「治療を受けない」という選択。その背景にある文化や価値観を知ることから始まる、ラオスでの看護

◆日本人医師とラオス人医師が一緒に考える、小児がん治療
10月20日から23日にかけて、ジャパンハートアジア小児医療センターのアドバイザーを務める、小児血液・がんを専門とする小児科医の七野先生がラオスを訪問されました。

ラオスの小児がんプロジェクトでは、政府との覚書に基づき、年2回の血液腫瘍内科医の渡航が定められています。今回は、今年2回目となる訪問でした。

今回の訪問では、12月に手術を予定している患者さんについて、化学療法を含めた今後の治療方針を、ラオス人医師と一緒にディスカッションしていただきました。

小児がんの治療には、化学療法と手術を組み合わせた長期間の治療が必要です。

そのため、日本人医師がラオスを訪問している期間だけでなく、日頃からラオス人医師と情報を共有し、継続して治療を進めていくことが大切になります。
「治療を受けない」という選択。その背景にある文化や価値観を知ることから始まる、ラオスでの看護

◆病院の外にもある、看護師としての役割
ラオスでは、小児がんの治療期間中、ずっと病院に入院し続けることはできません。
患者さんの多くは自宅から通院しており、地方から来られたご家族は、首都ビエンチャンの宿舎で生活しながら治療を受けています。
生活環境や衛生面では、決して恵まれているとは言えない部分もあります。

一方で、住み慣れた環境で過ごせることや、病院での生活による制限やストレスが少なく、比較的自由に過ごせるという良い面もあります。

私は普段から、ラオス人スタッフとともに患者さんの自宅を定期的に訪問しています。
「治療を受けない」という選択。その背景にある文化や価値観を知ることから始まる、ラオスでの看護
病院で患者さんと関わるだけでは見えてこない、普段の生活やご家族の様子を知ることができるのも、自宅訪問の大切な役割だと感じています。

今回の七野先生の訪問でも、患者さんの自宅に同行していただきました。

ご家族にとっては、普段不安に感じていることを専門の先生に直接相談できる貴重な機会となりました。

小児がんの治療を支えるためには、病院での医療だけでなく、患者さんやご家族がどのような環境で生活しているのかを知り、その生活に寄り添うことも大切だと感じています。

◆「CT検査や治療は必要ない」。ご家族の言葉から考えたこと
ラオスで活動する中で、医療に対する考え方や文化、価値観の違いを感じる場面があります。
最近、特に印象に残っている出来事がありました。

ラオス南部の県病院から、小児がんが疑われる患者さんをご紹介いただいたときのことです。

私たちは患者さんの状況を確認し、必要な検査や治療につなげたいと考えていました。しかし、ご家族から返ってきたのは、私たちが想像していたものとは異なる言葉でした。
ご家族は、次のように話されました。

「子どもはずっと元気だったのに、急に体調が悪くなったのは、お化けが悪さをしているからだと思う。誰かがお父さんの命を狙っていて、その影響で子どもが病気になっている。まずはお父さんがお祓いに行き、その後、子どもを連れて儀式を行い、悪いものを祓いたい。CTなどの検査や治療は今は必要ない。症状が悪くなったら、また連絡する」

私はこの言葉を聞いたとき、大きな衝撃を受けました。
日本で医療を学び、看護師として働いてきた私にとって、病気が疑われたときには検査を行い、必要な治療につなげることが当たり前だと考えていたからです。

しかし、ラオスでは、病気に対する考え方や宗教的背景、文化や価値観が日本とは異なることがあります。

今回のご家族の選択も、そうした背景を知ることで、私たちとは異なる病気への向き合い方があることを改めて考える機会となりました。

もちろん、医療者としては、必要な検査や治療を受けてほしいという思いがあります。

それでも、私たちの考え方だけを押し付けるのではなく、まずはご家族が何を信じ、何を大切にしているのかを理解し、尊重することが必要だと感じました。
「治療を受けない」という選択。その背景にある文化や価値観を知ることから始まる、ラオスでの看護
↑村の市場で診察している様子(まだまだ医療が届かない地域がある)

◆看護師として、目の前の患者さんとご家族に何ができるのか
今回、そのご家族は検査や治療を希望されませんでした。
しかし、そこで私たちの関わりが終わるわけではないと考えています。
今後、ご家族が治療を希望されたときに、選択肢の一つとして小児がん治療があることを知っていただくこと。
そして、必要なときに医療につながることができるよう、関わり続けていくことも大切だと思っています。

ラオスでは、さまざまな背景から、いまだに適切な小児がん治療を受けられていない子どもたちが多くいます。

医療技術や治療環境を整えることはもちろん大切です。
しかし、それだけでは解決できない課題もあります。

患者さんやご家族の生活を知ること。文化や価値観の違いを理解すること。そして、相手の思いを尊重しながら、どのように医療につなげていくのかを考えること。

こうした関わりも、ラオスで活動する看護師として大切な役割だと感じています。

私はこれからも、一人でも多くのラオスの子どもたちが適切な小児がん治療を受けられるよう、現地の医療スタッフとともに活動していきたいと思います。

この記事を通して、ラオスの小児がん医療の現状や、異なる文化の中で看護を実践することについて、少しでも知っていただけたら嬉しいです。
「治療を受けない」という選択。その背景にある文化や価値観を知ることから始まる、ラオスでの看護
ジャパンハートラオス
看護師
根釜宏平