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日本の小児病棟では、医療スタッフだけでなく病棟保育士や院内学級の教員など、多職種が連携を行いながら入院している子どもたちの教育サポートを行っています。しかし、カンボジアではそのような教育環境は整っていない現状があり、入院している子どもたちは十分な学習が行うことが難しい状況です。

同時に貧困差や地域差が生じている問題もあります。また教育制度は日本と異なります。退院後は入院前と同じ学年からの再開となり、進級するためには試験に合格する必要があります。カンボジアの小児病棟では、長期入院の子どもたちをサポートするために、医療スタッフが医療だけでなく、それ以上の関りを行っている姿が見受けられます。
スタッフの思い、カンボジア子どもの願い
ジャパンハートには、向学心があるものの、貧しさのために進学できない学生を支援する“夢の架け橋プロジェクト”という、海外医療人材育成事業の奨学金支援制度があります。

そのためジャパンハートこども医療センターではこの奨学金支援事業を受け、医師や看護師になったカンボジア人が共に活動しています。奨学金生が医療者になった背景は様々ですが、「里親さんやジャパンハートのスタッフに感謝している」という周囲への感謝とともに「勉強を頑張って良かった」という自分自身の努力と勉強の必要性を感じているという言葉を耳にします。

私が小児病棟で活動を始めた頃も「日本には病院の中に学校があるの?」「それはお金がかかるの?」という質問をよくされました。また新病院設立に伴いカンボジア人スタッフの思いを尋ねた際にも、「子どもが勉強できる環境が欲しい」というスタッフの思いを多く聞きました。

また、カンボジアでは5月ヴィサカ・ボーチアという伝統行事がありました。その日は寺院(パコダ)へ行きランタンを飛ばします。入院中の子どもたちは外出が出来ないため行事に参加することはできませんが、入院中の子どもたちが母国の伝統行事について学び、経験する手段はないかとカンボジアスタッフとともに考え、日本人学生インターンが中心となりランタン作りを行いました。
スタッフの思い、カンボジア子どもの願い
学童期以上の子どもたちはランタンの中に自分の願いを書きました。子どもたちは「病気を治したい」という願いとともに「勉強をしたい」という願いを持っていました。
スタッフの思い、カンボジア子どもの願い
そんなスタッフの思いと子どもたちの願いから、小児病棟では日頃から看護師が絵本を読んだり、英会話レッスンを行ったり、検査技師が音楽を行ったりしています。医療者としての業務だけでも忙しい日々ですが、隙間時間や業務時間外に行っています。
スタッフの思い、カンボジア子どもの願い
特に英会話は、カンボジア人スタッフと日本人スタッフ間は英語でコミュニケーションを行っているため興味関心を抱いている子どもも多く、子どもたち自らホワイトボードを準備したり、メモ帳を持参したり、意欲的に参加している様子が印象的です。みんな大きな声を出しながら何度も練習し、質問も飛び交っています。実践練習としてスタッフと英会話を行うこともあります。子どもたちが日本人の私たちへ英語で話しかけ、会話が成立した際にはとても素敵な笑顔をみせてくれます。私たちも子どもたちと直接会話が成立することに大きな喜びを感じる瞬間です。検温や日常の中でも子どもたちから英単語が飛び出ることもあります。
スタッフの思い、カンボジア子どもの願い
 近年カンボジアは急速に成長を遂げていますが、教育体制は未整備な状況です。カンボジア人スタッフの“入院中の子どもたちが学習を継続し、退院後にスムーズに復学できる環境をつくりたい”“子どもたちが将来の夢を持ち、その夢に挑戦できる環境なってほしい”という思い、子どもたちの“勉強をしたい”という願いが交じり合い、行動し、その結果が医療者と子どもたち、家族との信頼関係の構築につながっているのだと感じます。私自身、日本でも小児病院で勤務をしていましたが、専門職者がいない環境、小児看護についての教育が進んでいないカンボジアだからこその子どもとの関わり方もあると実感し、小児看護について改めて考える機会となっています。
スタッフの思い、カンボジア子どもの願い

看護師
白谷万葉