VOICE

新しいものとの出逢い
私は7月の約1カ月間、普段活動しているカンボジアのジャパンハート子ども医療センターから1時間半ほど離れたクロッチュマー病院という所で、一人で活動してきました。

私の任務は、3日間のジャパンハートメンバーによるモバイルミッションで手術を受けた患者の、術後から退院、その後のフォローアップが終了するまでを、一人でみることでした。クロッチュマー病院で働く医師や看護師とも協力しながらおこないましたが、この経験は私の看護師人生の中で初めてでした。

英語を使うことが当たり前だったジャパンハートの病院とは異なり、英語が通じるスタッフが少ない中で、知っているクメール語やGoogle翻訳、ボディランゲージを駆使しながら、コミュニケーションをとらなくてはなりませんでした。日本人は自分一人しかいない、なぜこんなところに日本人がいるのかと不思議そうに見られることも多く、そんな環境で過ごす1カ月はすごく刺激的なものになりました。
新しいものとの出逢い
術後の経過は人それぞれ異なり、順調に回復していく人もいれば、ヘルニアの術後陰嚢が腫脹し発熱したり、創部感染を起こした人もいました。このような患者を自分が責任もって退院を判断し、フォローアップの頻度や抜糸のタイミング、抗生剤などの薬の処方など、あらゆる判断をする度に不安で仕方なかったのですが、考えて、調べて、悩んで、アセスメントし、決断するという習慣が、自分の成長に繋がりました。同時に自分がこれまでどれほど医師の判断に任せていたのかを痛感しました。

創部感染をおこした患者の家族が英語を話すことができ、フォローアップ終了時に「日本人の看護師にみてもらえてラッキーでした」という言葉をいただいた。それを聞いて、素直に嬉しかったのですが、それだけ「日本人の看護師」というものに重みを感じ、その分期待に応えなくてはとプレッシャーにも感じました。
新しいものとの出逢い
なんとなく大丈夫だろうといった曖昧な感覚ではなく、根拠基づいてアセスメントしつつ、「家が遠いからフォローアップは頻回に来れない」「子どもが家にいるから早く帰りたい」といった患者の背景や希望を考慮し、これまで以上に責任を持って患者のケアに入ったこの経験は、とても有意義なものとなりました。

クロッチュマー病院のスタッフは、私をとても温かく歓迎してくださいましたが、仕事をする上では言語の壁をどうしても感じる場面はたくさんありました。

それでも、毎日顔を出して一緒にケアに入ったり、治療に参加していく中で、徐々に私の意見が求められるようになったり、どうしたら術後感染が防げるか医師に相談され、話し合うこともできました。

日本人一人がここにいる存在意義が見い出せず、悩むこともありましたが、もっと良くしたい、どうにか伝えたい、という強い気持ちや、少しでも英語が理解できるスタッフにお願いし、クメール語で通訳してもらうなど、工夫を凝らしながら、自分のできることを探し続けました。そして何よりも、言語が十分に伝わらない環境の中で 信頼関係を構築する難しさと、構築された時の喜びは非常に大きいものだと、改めて体感しました。

1カ月の滞在で、様々な感情が揺れ動く場面がありましたが、真剣に患者一人一人に向き合ったこの経験は、オペ室経験ばかりだった私にとって、とても新鮮な感覚でした。この感覚が当たり前になるように、今後も取り組んでいきたいと思います。
新しいものとの出逢い

看護師
西中 凜々子