VOICE
ゼロから築く手術室 ―カンボジアでの立ち上げの記録―
2025年11月、ウドンにあったジャパンハートの病院は、小児科のみ、タクマウにできた新病院(アジア小児医療センター)へと移りました。それに伴い、新病院の手術室立ち上げに携わらないかと、私に声をかけていただきました。私は日本で手術室看護師としての経験はあるものの、「立ち上げ」に関しては未経験の領域でした。それでも異国の地で、異文化の中でゼロから手術室をつくり上げる経験は、一生に一度あるかないかの機会だと思い、責任もって引き受けることにしました。
引越しの約1カ月前から、ウドンの手術室にあるすべての器械や衛材の在庫をリスト化し、新病院へ運ぶものとそうでないものに仕分ける作業から始まりました。また、購入が必要な器械については、カンボジアで買うのか、日本で買うのか、ドネーションされる予定なのか、また、何をどれくらい買うかを相談し、実際に買い物にも同行しました。カンボジアでは、手術で使用される器械も店頭で販売されています。日本ではこのような光景を見ることはないので興奮しながらも、カンボジア人と一緒に一つずつクオリティを確認し、値段交渉しながら、買い進めました。
手術器具や衛材の多くは寄付で賄われていますが、その分、いつ・どなたから・何を寄付していただいたのかを逐一把握することは容易ではありません。器材室は段ボールに囲まれ、その中には日本語で記載されているため、カンボジア人スタッフには使用用途が分からず封印されたままになっているものもありました。そのような状況の中で、日々の手術室業務と並行しながら、引越し準備を進める必要があり、作業は思うように進まず、夜勤明けでもそのまま残って準備を進める日々が続きました。
なんとか引越しの準備を終え、新病院へ無事に器材を運びこむことができましたが、次に私たちを待ち構えていたのは、「完成されていない手術室」でした。予定より工事が遅れていることは耳にはしたものの、すでに初回の手術日が迫っている中で、その光景を目の当たりにし、呆然と立ち尽くしました。手術室が完成し、清掃を終えなければ、麻酔器をはじめとする医療機器を搬入することもできず、手術進行のシミュレーションすらできません。すべてが整っていない、間に合っていない状態での手術室稼働に対しては、カンボジア人スタッフからも一部反対の声があがり、このまま進めてよいのかと悩むこともありました。

しかし、限られた資源の中でも最大限のパフォーマンスをすることの重要性は、これまでのジャパンハートの活動を通して学んできたことであり、私自身もどこかでその覚悟はしていました。急ぐ気配のない工事の方々と何度も交渉を重ね、なんとか手術前日には使用予定の手術室のみ工事を終えていただくことができました。そこからは急ピッチで清掃を行い、医療機器の作動確認も済ませ、ようやく当日を迎えました。
手術室用の手洗い場は、前日の夜まで設置されず、万が一使用できなかった場合に備えて飲料水を運び込み、手洗いを行うことまで想定していました。しかし、手術当日の朝、無事に使用できることが確認でき、胸をなでおろしました。

手術患者が入室する直前まで、工事の方々による手術室内の点検が入っており、いつもとは明らかに異なる緊張感の中でしたが、無事何もトラブルなく初回の手術を終えることができました。患者が退室した後、私はカンボジア人スタッフと目を合わせ、ほっとした気持ちを一緒に味わうことができました。この経験は、今となっては「カンボジアらしいな」と笑って思えるものとなりましたが、患者の安全を何よりも一番に思う気持ちが一つだったからこそ、カンボジア人スタッフと協働し成し遂げることができたのだと改めて感じます。

新病院に設置されたリカバリールームは、ウドンのジャパンハート医療センターにはないため、最初は使い方や患者を運び入れる基準などについて、カンボジア人スタッフと共通認識がとれておらず、危険だと思う場面もありましたが、その都度、感情をシェアして意見を出し合い、一つずつ丁寧に乗り越えていきました。
開院して3カ月ほどたった現在は、手術件数も徐々に増やし、一人でも多くの子どもが、安全かつ安心して手術を受けられるような工夫を凝らしながら、カンボジア人とともに日々レベルアップしています。

看護師
西中凜々子
