VOICE
「本当の幸せ」「心が満たされる」とはどういうことか(前編)
私は普段、カンボジアの病院で活動しているのですが、5月13〜15日に行われたラオスの甲状腺ミッション(手術活動)に参加させていただきました。
ミッション前にラオス入りをし、病棟や物品の事前準備、ミッション中の病棟・リカバリールームでの勤務、ミッション後は、活動地に残り、術後管理を行いました。
今回のミッションでは10人の患者さんが手術を受けました。どの患者さんも一人ひとり忘れられないエピソードがありますが、中でも一番印象的だったのはバントンさんという女性でした。
バントンさんは20年近く大きく肥大した甲状腺とともに生きていました。そのため、気管の形が変形してしまっていたほどです。10人の患者の中でも一番甲状腺が大きく、手術中や術後の合併症のリスクが高いため手術前から医師、看護師ともに細心の注意を払っていました。
▶術前のバントンさん
ミッション2日目にバントンさんの手術が行われ、無事に終わりました。
手術直後、リカバリールームで私はバントンさんのケアを行いました。普通手術直後は傷の痛みを訴えたり意識がはっきりしない人が多いのですが、バントンさんに声をかけると、しきりに手を合わせてなにかを一生懸命に伝えていました。
そばにいた通訳さんに何を伝えようとしているのか聞いたところ、「手術をしてくれてありがとうと言っている。JapanHeartで手術ができてラッキーだ、今はとても幸せだって言っているよ」と教えてくれました。
誰よりもバントンさんが大変な状況なはずなのに、術後最初に発した言葉が感謝の気持ちだったことに驚きましたし、無事手術が終わり、私自身ほっとしたのを今でも覚えています。
病棟へ戻った後、改めて痛みはないか、しんどくないかと聞いてもバントンさんはとても穏やかな表情で、「なにもない。ただ嬉しいだけ」と言っている姿がとても印象的でした。
さらには少しおどけた表情で、「(甲状腺は)もう捨てました」とも言っていました。
長年肥大した甲状腺のため、首が動かしにくく、生活しにくいことが多かったこともあって、手術後の痛みや苦痛はあれど、それ以上に手術を無事に受けられたことを嬉しく感じていたんだと思います。無事に退院できるように最後までしっかりケアしていこうと改めて感じた瞬間でした。
▶術直後病棟での笑顔
※後編へ続く
看護師
蛭川 陽香