ラオス
2020.02.12
たとえささやかであれ、自分に「できる」小さな事を見くびらない。
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むやみにあせってはいけません。
ただ牛のように図々しく
進んでいくのが大事です。
『漱石書簡集』
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ジャパンハートに入ってからは、現地のニーズに合わせて何を学んでいくのか変化させる必要があった。現地で生活を送る中で、現地の生活習慣・死生観・医療制度・救急医療体制・医療過疎などを知り、そこで一番何が求められているのかを把握し、そしてそのニーズに応えるために、自分が「やりたい」ことではなくて、自分が「できる」ことを模索してきた。
それは自分にとっては、例えば、小児麻酔・外科手術・腹部エコー・甲状腺診療・健康診断・BLS講義・内視鏡通訳などであった。
その中の1つがラオスでの甲状腺診療であった。ラオスでの甲状腺診療と日本のとは少し異なる。
例えば、日本とラオスの甲状腺診療の差は:
1.内陸国でヨード不足のため、甲状腺腫が多い地域である(endemic goiter)
2.100km以上離れた北部の患者は曲がりくねった山道を12時間〜1日バスに揺られて来るため、外来では車酔いになっている患者が多い
3.田舎の少数民族の患者は公用語のラオス語が話せないので、現地語➡ラオス語➡英語と2名の通訳を介して診療することがある
4.甲状腺機能検査(TSH,fT3,fT4)の結果は、次回数ヶ月後の外来にわかる(ただし、緊急の場合は、当日〜翌日に結果をもらえる)
5.甲状腺の自己抗体検査ができない(TSHレセプター抗体・TSH刺激性レセプター抗体など)
6.甲状腺穿刺吸引細胞診(FNA)や甲状腺シンチグラフィーの検査はできない
7.山岳北部の村で甲状腺ホルモンの薬が購入できないので、甲状腺全摘術が困難な場合がある
8.頻回受診は難しく、3ヶ月ごとにフォローアップをする
このため、一般的な甲状腺ガイドラインに記載されているフローチャートに則った甲状腺診療ができないため、「ウドムサイ病院で実施可能な甲状腺診療」というオリジナルな甲状腺の診療体系を作り上げる必要がある。
ただし、その診療自体が恣意的なものであってはならないため、できるだけガイドラインや医学論文から情報を元に、ラオス医師にも納得して貰えるようなスライドを作成して、それを参照しながら甲状腺診療を行う。
「なぜ、抗甲状腺薬を処方するときに副作用の説明が必要か?」
「なぜ、甲状腺全摘をしたときに甲状腺ホルモンを内服し続ける必要があるか?」
「なぜ、甲状腺ホルモンの採血だけでなく、問診・身体診察が大事か?」
こうした疑問に対して繰り返し答えることで、ラオス医師たちの他の分野での日常診療の質も向上するはず、たぶん。日本で甲状腺疾患なんて数症例しかみたことがなかった自分が、こうしてラオスで甲状腺診療にどっぷり浸かっているなんて、昔は想像もできなかった。
ラオス甲状腺診療の目標は、最終的にジャパンハートが撤退するときに、現地のラオスチームが質の高い甲状腺診療・手術を行うことができるようになることだ。
今、ラオス医師が自信を持って甲状腺診療をしている姿を見ると、
「自分のしていることはささやかだけど、自分にできるちいさな事を見くびらずに、牛のように進む」ことが大事なんだと実感している。
ジャパンハート 長期ボランティア医師 大江将史