活動レポート

ジャパンハートはアジア3カ国と、大規模災害などで無償で医療支援をしています。

カンボジア

2019.01.25

カンボジアの周産期事情①

スォースダイ(こんにちは)!
カンボジア駐在助産師の菊地南です。

2017年5月にゼロから始めた妊婦健診室は、月に300人を超える妊婦さんが来るようになりました。
それでも、日本では当たり前の「妊婦健診」が全く浸透していないここでは、まだまだ正しい知識をもった助産師や医師が少ないため、
正しい情報と適切な治療を得られない妊婦さんたちの医療不信は根深く
病院を転々としたり、噂や伝統療法などを強く信じています。

わたしたちが活動するこの地域でも、まだまだ、
「エコーをすると赤ちゃんが弱くなる」という噂を聞いて一度もエコーを受けずに出産に望む人。
妊娠中の飲酒を勧められ、毎日ビールを飲んでいる人。
エコーを色んな場所で受けるもののエコーの結果の用紙もなくしてしまい、分娩予定日が毎回変わるため、もはや妊娠何週何日か分からない人。
妊娠初期で赤ちゃんがまだ小さすぎて確認できなかっただけなのに、「あなたの赤ちゃんは死んでいる」と言われて中絶を勧められる人。
そんな妊婦さんが大勢います。

国際医療ボランティア ジャパンハート カンボジア 助産師

血圧が高くても、現地の助産師は血圧を下げる薬を1錠飲ませて、終了。
妊娠分娩暦の問診もしない、尿検査もしない。
妊娠中の体重管理や栄養管理、妊婦健診の正しい受け方を教えてくれる医療者はいません。

正しい知識を持った助産師を育てること。
お母さんたちやその家族に正しい知識を知ってもらうこと。
それだけで、減らせるリスクや、起こらずに済んだはずの問題がたくさんあります。

国際医療ボランティア ジャパンハート カンボジア 助産師

開院当初、カンボジアのことをほとんど知らずに来てしまったわたし。
カンボジアの助産師との会話や仕事の様子を見て違和感を感じ、彼女たちに質問してみると、驚いたことに一人も「正期産」が何週何日から何週何日を指すのかを知りませんでした。
「うーん・・・38週9日。」と答えるみんなを前に、更に絶望。
「1週間は7日だから、38週6日の翌日は39週0日になるんだよ。」という話から始めなければなりませんでした。

もちろん、妊婦への妊娠分娩暦の問診もとったことがない。
なぜ妊娠分娩暦が大事か、どんなことを聞くべきか、最終月経とは?というところから、ひとつひとつ一緒にやりながら教えるという忍耐のいる毎日。
しかもわたしは英語が苦手、彼女たちも母国語ではない。
日本語ならすぐに済むはずの説明に、何十分も要します。

それでも、彼女たちにも「わたしたちは助産師!」というプライドがある。
わたしの「絶望感」が伝わったのか、彼女たちも「教えられている」ということに苛立っているようでした。
助産師学生の間に100件近く分娩をとることができる彼女たちは、日本人助産師の分娩件数の少なさを理由に「自分たちのほうが技術も知識も上だ!あいつの言っていることは間違っている!」と主張してくることすらありました。

睡眠時間も殆どなく、心身疲弊した毎日。ほぼ未受診妊婦だらけのハイリスクな周産期医療。
そんなハイリスクなお産を毎日たった1~2人の日本人助産師で回す日々。そして、周産期の知識を殆ど持ち合わせていない現地の助産師。

身体的な疲労もピークでしたが、精神的な疲労が限界超えすぎていました。ハイリスクなお産をありったけの力で迎えるものの、既に手遅れで悲しい結果になってしまうこともありましたが、その悲しみや絶望に浸る時間もなく、次のハイリスク妊婦が運ばれてくる・・・。
実際、溢れ出る涙を拭きながら、走って次の分娩に向かったことも何度もありました。

国際医療ボランティア ジャパンハート カンボジア 助産師

そんな日々を思い返すと・・・
テキパキお母さんと赤ちゃんのケアをする助産師たちを見る今、幸せを感じずにはいられません。

助産師の仕事って、こんなにも楽しいんだよ。
多産な国カンボジアで、彼女たちが正しい知識と技術を持つことで救われるお母さんと赤ちゃんがどれほどいるか。
そして、「お母さんが変われば、未来が変わる。」
わたしはそう信じて、毎日戦っています。

カンボジア駐在助産師 Minami Kikuchi

☆助産師海外研修: https://japanvolunteer.org/volunteer/midwife_long/
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